ゼロの使い魔【魔を滅する転生者】

第15章:[偽章・真紅の少年伝説](1/23)

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『何故だ? 何故、神たるこの私が人間如きに敗れたのだ? 判らぬ、解らぬ』

 薄い青味が掛かる銀髪の青年が、魂魄のみの存在となって漂っている。

 青年は神であるが故に、肉体を喪って死しても意識在る魂魄となり、消え逝く事も無かった。

 父なるゼウスの下に生まれた彼は、自らが天地を統べると嘯き太陽を支配し、太陽神を名乗ったがやがてその力を恐れられ、封印が成されてしまう。

 だが、近年になってその封印の箍が外れ、この世に復活せしめてしまった。

 彼はそれが人間達を粛清する為と判断し、妹神である戦神アテナを迎えに聖域へと赴く。

 戦神アテナ……城戸沙織と、十二宮の闘いで死んだ双子座のサガ、魚座のアフロディーテ、蟹座のデスマスクを甦らせて、自身の擁するコロナの聖闘士と共に自らの神殿を復活させる。

 だが……アテナは従う事も無く、若き青銅聖闘士の“6人”に攻め入れられ、デスマスクとアフロディーテとサガのみならず、更にコロナの聖闘士も打破されてしまい、最後は黄金聖衣を纏った4人により斃されてしまったのだ。

『口惜しいですか?』

『誰だ?』

『なあに、貴方を復活させた者ですよ』

『な、なにぃ?』

 驚愕してしまう。

 よもや自身の復活に何者かが介在するとは思わず、てっきり人間の粛清の為にゼウスが甦らせたのだとばかり思っていたから。

『ふふふふ、フォェボス・アベル……』

『ぐっ、あ……?』

 急に心臓を鷲掴みされたかの様な圧迫感を覚えて、フォェボス・アベルは苦悶の表情を浮かべた。

『貴方に復讐の機会を与えて上げますよ』

『な、何だと?』

『貴方を殺した主犯格……双子座の聖闘士が別世界でのうのうと生きています。許せますか?』

『う、う……許せぬ』

 女性というか、少女の声を発している影は満足気に頷くと、アベルに力を……神力(デュナミス)を送り込んで肉体を形成していく。

『が、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

『さあ、甦りなさい。傲慢なる偽の太陽神フォェボス・アベルとコロナの聖闘士達……あはは、アーハハハハハハハハハ!』

 完全に甦り、肉体を獲たアベルとコロナの聖闘士はハルケギニアへ転送され、辺りは静寂に満たされる。

『クスクス、楽しんで下さいね? 愛しくて愛しくて壊したくなる貴方……』

 影は壊れた笑みを浮かべながら、アベルが転送された世界──ハルケギニアを見つめながら、燃える様な三眼を見開いた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 トリステイン魔法学院の厨房では、マルトー料理長や学院のメイド達が、驚愕に目を見開いている。

「あ、あははは。何だか判りませんが、シュヴァリエになっちゃいました」

 苦笑いをしながら報告をするのは、何故かセーラー服にマントを羽織るという奇抜な格好のシエスタ。

『『『な、何だってぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』』』

 更にはあんぐりと口を開けて、厨房を揺るがす勢いで全員が叫んだ。

 そして直ぐにマルトーが詰め寄って訊ねる。

「い、いったいどういう事なんでぃ?」

「はぁ、実は先日のお休みの時にアルビオンがタルブ村に攻めてきまして……」

「ああ、そいつぁ聞いているけどよ」

「その時の闘いでタルブ村の人達を護って闘ったのが評価されまして、アストン伯様とグラモン伯爵様からの推挙で、国王陛下御自らシュヴァリエ勲章とマントを下賜されました。それと曾祖父の家名を名乗る事も赦されたので、今の私は、シエスタ・シュヴァリエ・ド・ササキです」

 今回の活躍で、シエスタの曾祖父の佐々木武雄翁も家名を名乗れる事となり、その家名をシエスタも与えられた形になる。

 零戦部隊の指揮官としてアルビオン空軍を相手に、大きな活躍を見せた事による褒賞で、年金を受け取れる勲章と共に与えられた。

 サリュートも戦艦の艦長として褒賞を与えられている為、着いて来た兵達には充分な恩賞を与えてやる事が出来たという。

「ですけど、メイド服にはマントが死ぬほどそぐわないです……」

「いや、シエスタはもう、貴族様なんだしよ。メイド服を着る必要もあるめー。本来はウチで働く必要すら無かったんだし、ユート様の御側に居りゃ良いんじゃねーのか?」

「う、それは……」

 鬱ぎ込むシエスタを見たマルトーは頭をガリガリと掻き毟ると、ブンブン振って言い直す。

「わりー、ちっとオメーさんに嫉妬しちまったんだ」

「マルトー料理長?」

「俺ら平民は普通、どんだけ頑張ったって貴族様にゃ成れねー。それなのによ、シエスタはシュヴァリエ……貴族に成れた。羨んでもどーしょーもねーのにな」

 マルトー料理長はばつの悪い表情で言う。

「確か、あのサイトとかいうのも活躍したんだろ?」

「え、はい」

「いつかサイトの奴もよ、シュヴァリエに成るかも知れねーな」

 ガハハハと笑いながら、シエスタの肩を叩いて奥へと引っ込むマルトー料理長に対し、真っ直ぐ見つめて頭を深々と下げた。

 シエスタも貴族になった以上、付随する彼是の為に使用人は続けられない。

 ならばこれからどうするべきなのか? 護衛なんて余り意味も無い。

 其処でユートは、特例でシエスタを魔法学院へと通わせられないかを学院長と相談してみた。

 オスマン学院長としては受け入れ自体は構わない、だけどそれはシエスタ本人に辛い事になりかねない。

 そう言って難色を示す。

 ユートも理解は出来る、今まで使用人だった筈の者が自分達と肩を並べる事を厭う者は必ず出るし、それを貴族の誇りだ何だのと、下らない事を言って拒絶する可能性は充分にあった。

 あの連中は、シエスタが自分達と歯(よわい)する事を決して許容しない。

 ユートとしては余りにもナンセンスな話なのだが、気位しか能の無いアホ貴族なら間違いなくそう考えるのだろう。

 それにユートがシエスタに原作才人よろしく、あのアルビオン海軍の水兵服を贈ったのは、 単純に一緒に学校に通いたいといった欲望からであり、学院長にシエスタの入学を申し出たのもその延長線である。

 つまり、深くは考えていなかったのだ。

 まあ尤も、ヴァリエール公爵夫人が身分を保証し、国王陛下やアンリエッタ姫が手ずから、シュヴァリエを用意したという背景を持ったシエスタに、虐めなぞしようものならどうなるかなんて、少し物事を理解する頭が有れば判る筈の事。

 だが、それが理解出来ないのが貴族クオリティ。

 事実、既に政治や軍事から身を引いて久しいとはいえど、大貴族のヴァリエール公爵の娘を相手取って、『ゼロ』と呼んで蔑んでいた原作の貴族を鑑みれば、弁える心情などあろう筈もなく……

「処で、ミスタ・オガタ」

「はい?」

「シエスタ君は……いや、ミス・ササキは魔法を使えんのではないかね? 曲がりなりにも魔法学院じゃ。魔法を教えるのが主なのじゃがのぉ」

 ご尤もな意見なのだが、然しシエスタは魔法を使えるのだ。リンカーコアを持つ地球人の子孫故に、彼女も魔法は扱える。

 既にコモン・マジックであれば、彼方側の次元世界系統の魔法の要領で使える様になっており、問題点は系統魔法のみだった。

 それにしても、あの失敗作を用いれば使える筈だ。

 その事に関しては、既に前列としてシエラとミーナが証明をしていた。

 ユートは学院長の机の上に小さな黒い石を置く。

「何じゃね、この石は?」

「精霊魔石。精霊の力を、一点に凝縮する事で創られるマジックアイテムです。これを胎内に容れ、吸収させれば系統魔法を使える様になりますよ」

「な、何じゃと!?」

「まあ、欠陥品ですがね。何しろ、下の穴から容れなければならないですし……それをしても、魔力が低ければ結局は大した魔法を使えませんから」

「し、下の穴?」

 学院長も、ユートが何を言いたいのかは理解した。

 要は、直腸の奥深くへと容れるという事なのだが、実は少し問題点が浮き彫りとなっている。

 直腸に容れても直ぐ吸収はされない為、精霊魔石を容れて暫くはトイレに行く事が出来ないのだ。

 排泄物と共に捻り出してしまうから。

 直腸に容れる場合には暫くの間断食するか、排泄を我慢するかしなければならない事が判明した。

 其処までしても、大した魔法が使えなかったら正に涙目になる。

 従って、女性に限定して子宮へと容れるしかない、完全吸収には一週間も掛かるからだ。

 これとて問題がある。

 子宮の中に容れるという事は、産道口から産道へと通して子宮口まで導いてやらねばならないという事。

 処女なら間違いなく躊躇う行為、どんな形であれど膜を抜いて容れねばならないのだから。

 そんな説明をすると……

「う〜む。エロいアイテムじゃのぉ……」

 などと宣った。

 一発ぶん殴ってやろうと考えたのは、決して罪にはならないと思う。

 とはいえ、シエスタ相手なら問題は全く無い。

 そもそも、彼女とは既に己が剣をシエスタの鞘に納める仲なのだから。

「まあ、良かろう。ミスタ・オガタが面倒を見るのじゃぞ?」

「勿論だよ」

 オールド・オスマンは、羊皮紙にシエスタの入学を許可する旨を認め、判を捺してユートへと渡す。

「此処は学院じゃからの、学ぶ意志があるのなら拒む理由もないからの〜」

 普段は立派な教育者なのだが、どうにもそれが長続きしないのが、オスマン・クオリティである。

 故に、さっさと立ち去る事にした訳だが、後に正解だった事が判った。

 ロングビルが書類を持ってきた際に、いつものアレをヤってシバかれたのだと聴いたから。

 学院長からの許可を受けてから数日後、シエスタは学院へと編入した。

 セーラー服に学院指定の短いスカート、それに王室から下賜されたマントを羽織るという愉快な格好ではあったが……

 基本的に十二宮騎士団の人間が、ユートを始めとして全員が居る為、アホ貴族の介入は凌げている。

 だけど、庇い過ぎるのもまた良くない事なのだ。

 自分で凌げねばならない時は必ず来るのだし、今の内に慣れねばならない。

 そして、その時は意外と早くやって来る事となる。

 それは、ミズ・シュヴルーズの土系統魔法の授業の時に起きた。


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