ゼロの使い魔【魔を滅する転生者】

第5章:[ユートの躍進](1/15)

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 それは所謂、居合い抜きと呼ばれている技術。

「緒方逸真流・抜刀術……【玻璃の壱式】!」

 抜刀術、若しくは居合い術とは、日本刀を鞘に収めた状態で帯刀し、鞘から抜き放つ動作(抜刀)で一撃を加えるか、相手の攻撃を受け流して二の太刀で相手へとトドメを刺す技術を中心に構成された武術だ。

 【玻璃の壱式】というのは玻璃(ガラス)を砕かずに斬り裂く技の一種。

 勿論、砕いては失敗。


 ガシャァァァァァンッ!

 高速の鞘滑りで加速し、抜き放たれた刃は硝子へとぶつかる。

 だけどユートの目の前にある硝子が砕けてしまい、技は失敗に終わった。

「チッ! やっぱり駄目だったか」

「さっきのって居合い抜きだよね? 砕いちゃ駄目な訳?」

「斬らないと駄目なんだ」

 然し、こればかりは腕前の問題だけではない。

 六歳のユートではどうしても未熟な腕になる。

 一応、緒方逸真流は頭で覚えているのだが、身体には覚え込ませていない為、動きはお世辞にも滑らかとは云えずぎこちなかった。

 まあ、手続き記憶が真っ新な状態では仕方のない事なのかも知れない。

 記憶には大きく分けて三つの分野が有る。

 思い出を司る【挿話(エピソード)記憶】

 知識を司る【意味記憶】

 運動神経を司る【手続き記憶】

 この三種の内、ユートには挿話記憶と意味記憶しか残っていない。

 何故ならば、その二つは単純に新しい肉体の脳へとぶち込めば良いのが、手続き記憶に関しては身体が出来てもいないのに、無理矢理容れてしまうと筋肉や関節などを壊してしまう。

 二十歳の動きを六歳で行うのは、医学的見地からも危険なだけなのだから。

「【玻璃の壱式】は、飽く迄も窮めて砕け易い硝子を斬り裂く@習技だよ。それが出来て初めて成功、本来の威力だと言える」

「ふ〜ん。でも腕を上げれば良いんだよね?」

「いや、腕は当たり前だ。問題なのは武器なんだよ」

 ユートは右手に持った刀を掲げ、不満気な表情になるとブンッ! と上段から下段へ唐竹に振る。

 腕が良いのは当たり前、この技は腕だけでは決して成功しない。

「最上の刀と最高の腕が相俟って、相乗効果を齎らしてくれるんだ」

「そういうモンなの?」

 これが成功すれば斬鉄は疎か、様々なモノを斬り裂く事さえ敵うだろう。

 然し、今現在のユートが持ってる刀はユートが錬成した鋼を、平民の鍛冶屋に鍛造させた代物。

 この世界は鋳造が主だったが、ユートが雑学の知識から技術を与えて鍛造品を造らせた。

 包丁や鍬などの道具が、完成度という意味で品質が上がり、彼らはオガタ御抱えの鍛冶屋となる。

 とはいえ元より剣の普及率が低く、況してや鍛造が窮めて難しい刀の製作だ。

 切れ味も低いし、硬いだけのナマクラ刀が出来上がってしまう。

 鋼にしても刀の鍛造には特殊な焼きを鋳れたモノ、【玉鋼】が必要だったが、ユートの錬成では未だ造れなかった。

 イメージは在る。

 術式は完璧だし、呪文の構築も万全にしてあるが、それでも玉鋼を造れなかった理由、それは魔法のレベルが低かったという事だ。

 砂鉄を使い、石炭を媒介に錬成を行う。

 使うった魔法は、土土火のトライアングルスペル、それで完成したのが銑鉄。

 玉鋼の中でも決して高くはない等級である。

 玉鋼は出来によって六種類の等級に分けられるが、1級A、1級B、2級A、2級B、銑鉄、卸鉄の六種では下から二番目だったという訳だ。

 不純物を最大限除いて、僅かに出る最上級品質でも2級Aが最大だろう。

 家宝の【妙法村正】は、恐らく最上級の1級Aを使った刀だろうと思われる。

 当時、そんな等級は無かったのだろうが……

 更に鍛冶師の腕前が最上級とくれば、村正の品質が最高なのも当然だ。

 これは最上級品質の鋼材と最高の鍛冶師の二つが相俟って、その相乗効果で生まれた作品なのだから。

 そう、村正の腕だけでも良い玉鋼だけでも駄目だ。

「ユーキ、これは剣士だけには留まらない理論だよ。某・ピンクの髪の毛の歌姫も言っていた」

 そう言ってユートは右腕を挙げて人差し指を立て、天を仰ぐ。

「力だけでも、想いだけでも駄目だと」

「あ〜、確かに言っていたよね〜」

「他にも、某・眼鏡を掛けた元勇者も言っていた! 愛や優しさだけでは必ずしも他人を守れない時もあるのです。正義なき力が無力であるのと同時に、力なき正義もまた無力なのですよ……と」

「そ、それは何かが違う気がするけど。まあ、何を言いたいかは理解した」

 刀匠村正の腕が幾ら良くても、肝心な玉鋼の品質が低ければ刀の質も下がる。

 逆説的に、どれ程の素晴らしい品質の玉鋼であれ、扱う人間の腕が低ければ此方もまた品質が下がってしまうであろう。

「実際にさ、砂鉄と石炭は良いものを揃えたんだよ。でも玉鋼の品質は銑鉄だ」

 ユートの魔法の力が低いから、材料ばかりが良くても玉鋼の品質は高くない。

「な〜る、真理だね」

「せめて僕の腕がスクウェアなら、もっとマシな品質だったろうに」

「いや、六歳でトライアングルなら腕としては十分。刀を打つのに足らなかったってだけでしょ?」

 変な拘りか、自らを卑下するユートを胡乱な表情で見ながら、ユーキは突っ込みを入れた。

「どの道、元服の年齢になったら村正なんて特上な刀を貰えるんだよね? なら焦らなくても良いんじゃないかな?」

「それにしたって、少なくとも九年後の話だ。それまでの繋ぎとして、品質の高い刀が欲しかったんだよ」

「ああ、それでか。エルフのカウンターをどうすれば破れるとか、水の精霊をどう使えば交渉出来るかとか物騒な事を言ってたのは」

「まあね」

 東方からの流入品を手に入れるのなら、直接エルフの国に行って交渉した方が確実だとユートは考えた。

 商人を通じてでは何時になるかも判らないし、自分で捜しに行こうとしたのだろう。

「兄貴、もう少し自分の身を大切にしてくれない? お父様もお母様も、家臣団もシエスタやメイド達も、それにボクだって兄貴の事を心配してるんだよ?」

「……ユーキ」

「コホン! ほら、銃の扱いを教えてくれるんだろ? 早く見せてよ!」

 真っ赤になったユーキ、言ってて照れたらしい。

「照れ隠しか?」

「わざわざ言うなよな? 莫迦兄貴!」

 そんな悪態を吐くユーキは耳まで紅い。

 ユートはくつくつと笑いながら、トランクに容れてあった銀色のリボルバーを取り出して、シリンダーをセットする。

 改造六連回転式拳銃で、魔弾を撃てる様になった。

 銘はイタクァの侭だが、銃の形状が暴君の魔銃だし問題は無い。

 弾丸には予め魔法を付与してあり、檄鉄を打たれるとバレルを通り、銃口から魔法が放たれる仕組みだ。

 六連装だから連続で六発放つ事が可能で、当然ながら前籠め単発式のマスケットに比べて高性能。

 手に入れた去年からゼロ戦共々、少しずつ改造をしていたユート渾身の逸品。

「ほら、ユーキ」

「サンクス、兄貴」

 そして、ユーキは新たなる力≠手に入れた。


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